2010年 06月 17日
《 仕事の重み 》相変わらず、忙しい奴で病室でも仕事をしていました。「奴らしいな~」と。
病室は福岡天神にある済生会福岡総合病院の11階の個室。おそらく、奴はVIP部屋を占拠したのでしょう。
~ 上の写真は、病室から見える福岡天神の裏風景。~
一日中そこにいても飽きないぐらい景色がものすごく良かったですからね。
しかし、ゆっくり休まず仕事をやっているわけですよ、奴は!
その時は、福祉関係の講演のレジュメの件をTELであれやこれやと話していました。おそらく今、係争中の事件は数十件も担当していて多忙×多忙らしいです。
そう言えば、奴からも「仕事に対する責任の重さ」というものを、ずっと昔教えられました。
彼とは、兄弟みたいなもので約36年間もずっと一緒に生きてきました。だから、お互いの両親もお互いにとても大切な存在と感じていました。
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◆あれはもう11年ぐらい前のことでした。
彼のおふくろさんが、トイレで倒れ病院に運ばれたと彼から連絡が入り、タクシーでぶっ飛ばして病院に行きました。
病室に入って、「何でこうなったんや!」と、彼に怒鳴って言うと、「赤司、おふくろはもうダメだ。」と、肩を落としていました。(脳内出血で余命2~3日と医師から宣告)
私は、彼のおふくろさんが倒れる数日前に、生まれたばかりの長男を抱かせて喜んでくれたのにと言いながら泣きじゃくりました。
当然、彼も私が来る前に、ものすごく泣いていたと思います。
おふくろさんが全身で息をし、看護婦が何度もベッドのところを行き来するそんな緊迫している病室の中で、彼が私に信じられない言葉を発しました。
「赤司、お願いがある。俺は、おふくろのそばにずっとついていてやりたい。しかし今、係争中の裁判があと2日後にある。それで、まだ書類を仕上げていない。とてもつらいが、今からこの病室で仕事をするしかない。それで仕上げた書類を事務所に持って行ってくれ!頼む!」
「そんなもん他の弁護士に頼めばいいじゃないか!お前はアホか!」
「そうかもしれん。が、この事件は俺しか分からない。だから他の者に引き継いでもらうためにも書類を作成するしかないんだよ。」
彼は涙目にもかかわらず、焦燥感に満ちた顔をしていたので、私は一つ返事で引き受けることにしました。
それから、彼は即座に仕事を始めました。
彼は、ずっとずっとワープロをパチパチと打ち続けました。
その間私は、奇跡が起こるのを祈りながら、おふくろさんの乾いた唇に湿った綿で水滴を1、2滴落とすことを繰り返していました。
結局、この病室で、この私の行動と対照的に、彼の打つワープロの音がパチパチと夜中じゅう、鳴り響きました。
まあ、看護婦たちは完璧にあきれ返っていましたね。私も何とも言いようがない気持ちを夜中じゅう引きずりました。
そしてその朝方、私は彼の指示どおりに届けに行きました。
残念ながら、おふくろさんは2日後に天国に行ってしまいました。
その後、彼が病室でとった行動が納得いかず、私はそのことをずっと考えていました。
でも、もし私が彼だったら同じことをしていただろうと思い、当時はとりあえず納得してしまいました。◆
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その頃は私にも、仕事に対しては誰にも負けない責任感はあると自負していました。
「けれども、ここまでするか?」 と思い、「アイツは、感情で左右されないスタートレックのスポックと同じになってしまったんじゃないか?」と、あきれていました。
が、年をとるごとに、そして部下や子どもたちを指導するたびに、
「自分が置かれている立場」そして「その責任の重さ」ということを考慮すれば、どんな仕事に対しても 「仕方がない!」という言葉は合致せず、「やらねばならない」という思いが頭から離れなくなりました。
やっぱり、お客さまにご迷惑をかけるわけにはいきませんからね。
この出来事は、今でも鮮明に覚えています。
だから、「やばい!やらんといかん。」と思うときは、あのおふくろさんの息遣いとワープロの音が聞こえてくるのですよ。
「いや!仕事のためには親の死に目にも会えない。」と言っているわけではありませんよ。
誤解のないように!
p.s 先日のお見舞いのあと病室を出るとき、彼の奥さんから「2週間の入院なのに、1週間で主人は退院するって言うのですが、止めてくれませんか?」と言われましたが、「奥さん、無理ですよ。」としか言えませんでした。やっぱり、アイツはアホでした。でも、今じゃ売れっ子弁護士で、講演のあとの「追っかけ」がたくさんいると言っていました。ホントかいな?